比賀流 快楽的セルフビルド入門

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第2回 設計、そして土地造成

ギャラリーPejjiteの喫茶室いくらセルフといったって他人に頼るところもある。
設計はやはり設計者に。
でも、「図面屋」だったら必要ない。
僕の思惑を超えるようなものを設計してみらいたいから。
土地造成も、独力じゃ、ちょっと…
でも、心強い恋人RAUNNIがいる。
ン? いや、ユンボです。ポンコツの。
とにかく何でも、楽しまなくっちゃ。

蛇足:RAUNNIとは、僕が北欧にいた時のガールフレンドの名前です



設計者はアーチストたるべし、ただの図面屋は要らない

前にも書いたように、自分が考えつくような建物ならばわざわざ設計者をいれる必要はない。建築にかかわる仕事の中でも設計は一番面白そうな仕事なのだから、お金を払ってまで他人に楽しみを譲ることはないのだ。

知人から紹介してもらった最初の設計者は「図面屋さん」だった。プランを幾つか出してもらったが、どの案も小手先でひねっただけの陳腐なものでしかなかった。大きな工務店からの請負で、店舗や住宅を数多く手がけている人だったが、都内でリミットの多い仕事に慣れすぎていたのかもしれない。別のプランをお願いしそびれている間に連絡が途絶えてしまった。『こういった手相に付き合っていたら仕事にならない』と思われたのだろう。

その頃は土地探しの徘徊同様、面白い建物を見かけたらためらわずドアをノックして、図々しく拝見させてもらったり、話を聞いて回ることを心掛けていたのだが、そうして発掘したのが「山嵜雅雄建築研究室」であった。最初に出されたプランを見てこの人と造ろうと決めてしまった(こういうことはインスピレーションが大切だ)。

なんと!それはヒョウタン型の家であった。集成材の丸材と細長いペアガラスを交互に並べて外壁にするアイデアは、逆立ちしても僕の頭からは出て来そうになかった。

「ヒョウタンからコマ」とはこのことだ!!

おもうに、建築の設計者は、やはりアーチストであるべきだ。ただのオブジェではなく建造物を造る以上、強度やコストの問題、ディテールへのこだわり等もないがしろにはできないが、それらをクリアーしたうえで、場合によっては、そういった問題を置き去りにしてでも、斬新で緊張感のある空間を提案すべきだと思う。

どうしても現実的な問題(強度やコストなど)が気になる人は図面屋に徹したほうがよい。現場が施工図を用意しなくても仕事がはかどるような丁寧な図面を用意してもらえるなら、ずぼらな設計者よりはよほど有難い。現場での施工に配慮せず、実現不可能な図面のことを『マンガ』というらしいが、『マンガ』大いに結構!是が非にでも建ててみたくなるような建物であるなら!それを現実のものにするのは施工者の腕と工夫だ!
(オット、また威勢のいい屁理屈を口走ってしまった。反省反省。)

今回の施工者は建築にはズブの素人の僕自身なのだ。物置だって作ったことのない人間に芸術的な建築を仕上げることができると誰が思うだろう?しかも一人で!山嵜氏は、まぎれもなくアーチストであった。そんな依頼主である僕にいきなりヒョウタンをぶつけてきたのである。この人は仕事を楽しめる人だと思った。それなら存分に楽しんでもらおうというわけでもないが、ずいぶんと沢山のプランを出してもらった。

結局、ヒョウタンプランは実現せず現在の建物に落ち着いたわけだが、今でもいつかは造ってみたいと想う『オブジェ』である。

採用したプランは二棟の建物のコンビネーションを主眼にしたものだった。すでに取りかかっていた作業場とは意匠が異なるが、部分的に外装を合わせることで連続性を持たせることにした。土地探し、設計者探しとあちこちを徘徊ばかりしていたが、いよいよ腰を据えて家造りに取りかかることになる。


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伐採、抜根、そして造成。機械の力は偉大だ

大型ユンボも加わり、みるみるうちに(?)造成展示棟と住居のプランが決まった時点で、作業場は7割方工事を終えていたが、建築工事について書き始めるには、作業場に取りかかる前の段階まで話を戻す必要がある。

伐採屋が木を切り出したあとの現場は荒涼とした樹木の墓場になっていた。打ち落とされた枝が散乱し、切株が墓標のように並んでいた。これらを始末して斜面に平坦な敷地を造りだす造成工事が必要だった。
人力ではどうしようもないのは一目瞭然なので伐採屋の公徳さんから廃材の処理方法や整地のしかたを教わり、ついでにポンコツのユンボを譲り受けた。

まず地面にできるだけ大きな穴をほる。次に穴の中にたくさんの古タイヤを放り込む。そこに廃材や、抜根した根っこを盛り付ける。その上からドレッシングならぬ灯油をふりかけ火をつける。そうそう、火をつける前に消防署への連絡も忘れてはいけない。半端な穴では杉の葉だけが燃えてしまい太い丸太や根っこは残ってしまうので、穴はめいっぱい大きく掘ったのだが、それでも焼却できる廃材の量は限られたものだった。

燃え残った根っこを埋め込んで次の穴を掘る。次々に掘る!秋の夜長に豪勢な焚き火を見守りながら飲む酒は格別であった。ただし上着は火の粉で穴だらけ、顔はすすで真っ黒の有様で、被災者のような風体をして小さなユンボで悪戦苦闘している姿(ポンコツユンボの巻参照)を見かねて、近くの農家の人が大型ユンボを貸してくれたほどであった。。。

独りで作業をする場合機械の力は不可欠だ。土木作業ではことさらで、不可能だといってもイイ。まともに動く大型ユンボの力は絶大であった。小さな根っこなら一撃で掘り出すことができた。ドアを閉めれば燃え盛っている火の中に直接放り込むこともできた。あんなに苦労した倒木の山がみるみるうちに片付いていったのだった。


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バケツの水で 「 水盛り 」 のあとは、いよいよ ” ポンコツユンボ ” の出番

敷地を大まかに削り取り、造成地らしくなってきたら、最後の仕上げはハイド板が付いているポンコツユンボの出番だ。水盛りで出したレベルに合わせて整地していく。

ところが、これがまた難しい。何度やっても表面が波打ってしまうのだ。ハイド板を上下させるタイミングが微妙にずれてしまう。これはユンボがポンコツなためではなく、技術の問題で、経験を重ねて憶えるしかないさそうである。技術といえば、レベルそのものもいい加減であった。まだレベラーもトランシットも知らず、バケツの水とビニールホースを使っていた。水準器という便利なものを知ったのも作業場の布基礎を打ち終えたあとだった。

また理屈を言わせてもらうと、便利な道具は最初から用意しないほうがよい。手元にある物で出来るだけやってみる。その方がひとつの道具を幾通りにも応用して活用できるようになるし、素朴な道具ほど加工の原理が理解しやすい。


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冬場の土は、嬶ァの○○○? イジリすぎは禁物!!

造成の仕上げの頃になると、もうひとつ厄介な問題が出てきた。冬将軍がやって来たのだ。作業をしていれば寒さは気にならないが、資材にうちかけてあるシートは煎餅化してしまうし、重ねた材木は氷結して剥がれない。ユンボまでが地面に張り付いて動かなくなる始末だった。

さらに厄介だったのは「土」で、掘り返した地面が一斉に沼になってしまったのだ。ゴム長がすっぽりと埋まって足が抜けなくなる程で、日没と共に足型はそのまま凍結した。朝夕はカチカチの凍土。昼間はドロドロの粘土。これでは地ならしなど出来るはずはない。伐採屋の公徳さんの言葉を借りれば「そりぁおめぇ、冬場のつちぁかかあのアレとおんなじだぁ、いじりゃぁいじるほどべとべとだぁ」納得!

「土地造成の手順」

大地は確固として不動のものではないのだ。地殻がマントルの上を漂っているように、足元の地面は薄く乾いた泥の表面にすぎない。削ったり、掘ったりする刺激が、文字通り呼び水になって、簡単に液状化してしまうのだ。出来ることは、泥の表面を少しだけ厚く、歯ごたえのいいものに変えることくらいだ。

彼のアドバイスにしたがって、春を待たずに大量の『岩っクズレ』を埋め込んだ。近くの林道工事の現場との間を何度も往復して持ち込んだ数十トンの岩石を、泥の海はうそのように飲み込んでしまった。
建物を建てるとき、基礎工事が大切であることは承知していたが、それも敷地の土質が整備されていることが前提で、さもなければ、建物は基礎のコンクリートごと傾いてしまうのだ。敷地を造成するということは、雛段を造ることでも、表面を平らに均すことでもなく、土質を改良することだったのだ。

嗚呼、春が待ち遠しい・・・(著者近影)

第3回へつづく・・・


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コラム

ひとくちコラム 「 ポンコツ ・ ユンボ 」 の巻

伐採屋の公徳さんの所からわけてもらったユンボは恐ろしいほどの年代ものだった。
操作レバーは全部で8本もあり、穴だらけのマフラーからは凄まじい煙と音が噴き出した。
しばらくすると油圧パイプからオイルも噴き出した。動かせているうちにキャタピラまで外れてしまった。
タダほど高い物はないとはよく言ったもので、処分するにしても安くはあがらない。
タダといっても、運送費など、それなりの費用もかかっていることだし・・・。

「OK、とことん付き合ってやろうじゃねえか」と腹を決めた。

マフラーを取り外し、スチロールでシートを修理し、コーキング剤とビニールテープで油圧パイプをふさいだ。
キャタピラの修理は大変だった。ハンマーで叩き、バールでこじいてやっと動くようになったと思ったら、
すぐまた外れてしまう。調整用のボルトはあるのだが、ネジ山も判別できないほど錆び付いているのだ。
ひどい時には一日の大半をキャタピラいじりに費やすこともあった。

誰もいない山の中でユンボと意地の張り合いをしている姿は滑稽であっただろう。
喧嘩をしているうちに気心が知れてくるのは人間と同じで、何度も格闘しているうちに
彼女の癖が判ってきた(ユンボは女性名詞だったっけ)。

そもそも鉄の塊がすねているのを人力でなだめようというのが間違いで、本人に修正させればよいのだ。
逸脱した側のキャタピラを高く持ち上げて空転させると、自然に復元することを発見したのだ。
その手がだめな場合でも5分以内に修復できるまでになった。キャタピラ以外にも、彼女には苦労させられた。
でも、おかげで土木機械の扱いには自信が持てるようになった。

建物がおおむねできあがったいま、彼女がどうなったかというと・・・・・・・
実はまだ裏庭にいるのです。

ポンコツ・ユンボ


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